いち瑠の放課後

きものエピソード

いちるのもり
2025/01/23 10:44

きものエピソード001

 

私と祖母と着物と

 

両親の離婚により、中学2年生から大学を卒業するまで、

祖母の家に、祖母、母、妹、私の4人で暮らしていた。

 

その期間、私は祖母のことを、日本語が喋れる宇宙人だと思っていた。

 

聞いたことのある話を何度も繰り返し話してくるし、

一緒に暮らす上で守ってほしいルールを伝えてもおかまいなしだし、

カチンとくるような一言を連発するしで、とにかくストレスが大きかった。

どれも祖母には悪気がなく、余計にタチが悪かった。

 

私は祖母を世間の常識が通じない、宇宙人だと思うことにし、

極力距離を置き、衝突しないようにしていた。

 

大学卒業後、5年間東京で働き、去年の5月に地元・福岡に転勤になった。

新しい何かを始めたいと思う中で、

祖母の家に着物がたくさんあることを思い出し、いち瑠へ体験に行った。

 

体験教室では、長襦袢と着物を着て、着物を畳むまでを教えていただいた。

講師の方の着物を扱う所作の一つひとつが大変美しく、

私も物を大切に扱える、品のある女性になりたい!とその場で入会を決めた。

 

クラスが始まる前に、

サイズの合う着物があるか確認するために祖母の家を訪ねた。

10着ほどの着物を広げ、羽織ってを繰り返し、

私の家に運ぶものと祖母の家に置いておくものを選り分けた。

 

たとう紙にしまうため、

体験教室で教わった通りに着物を畳んでいると、

「亜矢ちゃん、よう畳み方、知っとるね。綺麗に畳んですごいじゃない」

と祖母に声をかけられた。

 

「枚数多いけん大変やろ。おばあちゃんも手伝っちゃるけんね」と、

足が悪いにもかかわらず、畳に座り、2人で着物を片付けることになった。

 

祖母は、講師の先生と全く同じように綺麗に着物を畳んだ。

私への説明の仕方や、難しいポイント・コツも教わったことと全く同じだった。

驚いた。

 

今まで常識が通じず、同じ言語を喋れるはずなのに、

何一つ理解されないし、理解できなかった祖母。

 

そんな祖母と着物に触れるという同じ体験・時間を共有している感覚が新鮮だった。

 

長く続いた祖母との心の距離を縮めてくれた着物。

祖母が大切にとっておいてくれた着物を、

私も大切にし美しく着た姿を祖母に見せたい。

 


※ここでは生徒さんから寄せられた過去の素敵なきものエピソードを順次紹介しております。

 (リアルタイムのお話ではございません)

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