きものエピソード12

祖母が遺してくれたもの
着物を見ると、いつも亡き祖母を思い出す。
12年前、私が高校生の頃に他界した祖母は、話に聞くと着物を仕立てる仕事をしていたらしい。
思えば幼い頃は七五三用、夏祭り用の着物や浴衣、冬に羽織る半纏と、
様々な服を作ってくれていた。
しかし、そんな祖母を持ちながら、
母や叔母を含め、着物を日常的に着る親族は私の周りにはおらず、
祖母の存命中は私自身も着物に対してあまり興味を抱いていなかった。
私が着物に関心を抱き始めたのは、成人式で着た振袖がきっかけだった。
その振袖は、祖母が母の成人式のためにと準備したもので、
母はその振袖を娘である私や姉に着せてくれたのだった。
仕立てから30年近くもたった着物を、
世代や時代を超えて、母や姉、自分とで共有できるのがとても素敵だと感じた。
帯や小物を変えるだけで、母、姉、自分とで同じ着物をまとっているのに、
まったく違う着物を着ている印象を受けることも不思議で面白かった。
振袖を着ている間中、
この着物の奥深さには言いようのないワクワク感を抱いたのをよく覚えている。
成人式をきっかけに、着物に関心を抱いたと同時に、
着物に携わる仕事をしていた祖母を持ちながら、
着物を自分で着ることも、着物についての知識も何もない自分に気づいた。
祖母が遺した着物や帯を見ても、それが何か判別ができない。
着物の種類も帯の種類も、作法も何もわからない。
そうしているうちに、祖母の遺品の大半が処分されてしまい、
気づけば、ほんの僅かしか私たち家族の手元に残らなかった。
その現実にもどかしさを感じ続け、着物について学ぶ決心をしたのが昨年の話だ。
着物について学び始めてから、祖母の遺した着物や帯の種類が判別できるようにもなった。
たったそれだけで、祖母が傍らでニコニコと笑ってくれているような気がして、
嬉しくて楽しくて仕方なかった。
その反面、祖母の存命中に学び始めていれば、
祖母ともっといろんな話ができたのにと考えてしまう時もある。
着物について、祖母の仕事について、いろんな話を聞いてみたかった。
そう思ってしまう。
だが、祖母が仕立てた振袖がなければ、
きっと私は今でも着物に興味もなく、何も知らないままだったろう。
今は祖母にはもう会えないが、それでも着物が私と祖母を繋げてくれる。
私は未だ知識も浅く、お世辞にもまだ満足に着物も着られない。
だが着物は学ぶほどに奥深く、面白い。
祖母が遺した着物を大切に、後世に伝えていくのにも、
これからも長く深く着物について学びながら、祖母の愛した着物の世界を楽しんでいきたい。
※ここでは生徒さんから寄せられた過去の素敵なきものエピソードを順次紹介しております。
(リアルタイムのお話ではございません)