きものエピソード10

いつか母と歌舞伎座へ
ちょうど一年前の今頃のことです。
友人から「着付けに興味ない?」と聞かれ「ある!」と。
「一緒にお教室通ってみない?」「行ってみたい!」と。
これが私の着付けを習うことになったきっかけでした。
そんな軽い気持ちで始めてみたものの、いざ通い出してみると、
聞きなれぬ用語に戸惑い、なかなか覚えられぬ手順にあたふたし、
ズルズルと長い帯や着物の取り扱いにも四苦八苦。
汗だくになりながらなんとかその日のレッスンを終えるも、
一週間経つともう前回習ったことなどすっかり忘れてしまうような有様でした。
そんなある日、実家の母に「着付けを習い始めたので着物を貸してほしい。」と連絡すると、
「やるなら最後までやりなさい。中途半端で終わらせてはダメよ。」と、ひと言。
母は若い頃、デパートの呉服売り場で働いていたので着付けの経験はあるのですが、
きちんと資格を取らなかったことを、年老いた今でも後悔しているというのです。
実家へ帰ると、母が嫁入り前に用意したという着物や帯が、
何十年ぶりに桐ダンスの中から出してありました。
一つ一つを手に取りながら、懐かしそうに思い出話を語り始め、
「着物を着てお出かけするような家にお嫁に来なかったから
タンスにしまいっぱなしでシミだらけになっちゃったわ。
でもまさかこんな風に日の目を見る日が来るなんてねえ。」と
どことなく嬉しそうな表情。
それ以来、母と連絡を取ることも多くなり、
着物を通して少し親孝行ができているような・・・
いつの日か、母と歌舞伎を観に行きたいと思っています。
もちろん、着物で。
その時のためにも、これからも練習に励んでいきたいと思います。
※ここでは生徒さんから寄せられた過去の素敵なきものエピソードを順次紹介しております。
(リアルタイムのお話ではございません)